下河ヤエさん

アイナ
アイナ

下河さんは厚真出身で、結婚して白老に来たんですよね。

下河さん
下河さん

はい。それまで、アイヌ文化については見たことも聞いたこともありませんでした。

42歳から、子育てしながらゴルフ場でキャディーの仕事をしていましたが、体力的に続けるのが不安になってきたとき、旧アイヌ民族博物館(ポロト)で職員を募集していたので、応募しました。

1987年、48歳の時です。

初めの頃は案内役だったので、バスが止まったら、人数を把握して添乗員さんをチセ(伝統家屋)へ誘導し、16メートルのコタンコㇿクㇽ像について説明したり、ガイドのような役割をしていました。

2年目からは、人手が足りないと頼まれて、古式舞踊も踊ることになりました。

すると今度は自分が着て踊るための衣装が足りなくて、先輩の衣装を参考に1週間で縫い上げました。

アイナ
アイナ

それは、すごい早さですね!?

下河さん
下河さん

18歳頃から5年ほど、服飾の学校へ行っていたので、もともと縫い物ができたのです。

洋裁はドレメ式を習っていましたし、和裁もできました。

それで、夏場は踊り、冬場はみんなの衣装を縫うようになりました。

夏場はお客さんが多いので、針を持つ暇はありませんでした。

アイナ
アイナ

衣装のデザインは、どうやって考えたのですか?

博物館にある実物の着物を見たり、図録から文様を書き写したりしました。

基本的にはオリジナルのものは作らず、伝わっているものを忠実に再現しています。

ルウンペ(木綿衣)の複製にも取り組み、これまでに縫い上げた衣装は300枚以上です。

一部は米スミソニアン博物館にも収蔵されていますよ。

ウポポイでの第二回テーマ展示「地域から見たアイヌ文化展 白老の衣服文化」で展示された下河さんのルウンペ
アイナ
アイナ

手仕事だけでなく、古式舞踊やムックㇼなどの伝統芸能の講師も多く務めていらっしゃいますね。

ポロトでは、歌も踊りも手仕事も儀式もしましたから、アイヌ文化の暮らし全体を学ぶことができました。

踊りのメンバーとしては、月に1回、15名ほどで本州へ出張公演にも出向きました。

国技館や国立劇場で踊ったこともあります。

沖縄や台湾、フィンランド、ドイツなど海外でも公演しました。

白老町指定無形民俗文化財 伝統文化継承者

アイナ
アイナ

下河さんは2013年、白老町の指定無形民俗文化財である「伝統文化継承者」に登録されています。

衣装だけではなく、伝統儀式で使うトノト(酒)や供物の作り方を教えてきたことが評価されました。

儀式の作法は、ポロトで藤村先生に教わりました。

色々な作法があって、注ぎ口のところに触らないとか、左に3回まわして右に2回でスッと引くとか、そういうことを覚えました。

そういう作法は家によって違うそうですが、違って当たり前だと思います。

私はイヨマレ(儀式でトノトを注ぐ)を40回以上務めましたが、やっぱり儀式って素晴らしいと思います。

アイナ
アイナ

ポロトコタンでは、儀式がよくおこなわれていたのですか?

初めは儀式をできる人が白老にいなかったので、町外から伝承者を招いて教わりました。

思い出深いのは、1996年にポロチセが火事で焼けてしまった後のカムイノミです。

12月の寒い中、夜10時ごろに行いました。

その後、カヤを集めてチセの復元を行いました。

その様子は、「ポロチセの建築儀礼」という本に記録されています。

現在の活動

アイナ
アイナ

現在は、白老の社台にあるコミュニティカフェ「ミナパチセ」でアイヌ刺しゅうの講師をされていますね。他にはどんな活動をされていますか?

下河さん
下河さん

「ミナパチセ」では、毎月3回教えています。

遠くから通ってくる方もいて、熱心に刺しゅうしています。

ポロトは1999年に退職しましたが、パート職員としてウポポイ開業まで働いてきました。

今も、ウポポイで使われる着物を縫っています。

それと、スマホホルダーが人気で、頼まれては作っています。

アイナ
アイナ

下河さんの着物は、踊ってみると違いがわかると、踊り手にも評判ですね。

下河さん
下河さん

縫うことと、それを着て踊ること、自分も両方ともやってきたからかもしれません。49歳で夫が脳梗塞で倒れて、生活のために両方やらざるを得ませんでした。無理がたたって、2度ほど入院したこともありますが、毎週土曜日になると娘が1人で電車にのってお見舞いに来てくれたんですよ。だから土曜日は、私と隣のベッドの人で、入院食のヨーグルトを残して待っていたんです。ニコニコした娘の顔を見るのが楽しみでした。今は国の重要無形文化財であるアイヌ古式舞踊や、先人から引き継いだ儀式、アイヌ刺しゅうを若い人に伝えていくことを、誇りに思っています。

展示歴

白老 伝統文化継承者下河さんの作品 アイヌの手工芸並ぶ


会場では、木綿の生地に細長い白布や色布でアイヌ文様を施した伝統の衣服を展示。

また、刀掛け帯、鉢巻き、背負い縄などアイヌ民族の儀礼や暮らしの手工芸品、刺しゅうでアイヌ文様の美しい線を描いたタペストリーなどもあり、計22点が並びました。

略歴

  • 1987年   (財)白老民族文化伝承保存財団入会
  • 1998年   アイヌ工芸作品コンテスト(アイヌ文化財団)優秀賞受賞
  • 1999年   (財)アイヌ民族博物館(現(一財)アイヌ民族博物館)退職(以後ボランティアとして現在に至る)
  • 2001年   北海道ウタリ協会コンテスト 奨励賞受賞
  • 2006年   白老生活モデル事業(コンチ・マエタレ)講師
  • 2011年   北海道ウタリ協会 表彰(アイヌ文化の伝承発展に貢献)
  • 2014年   アイヌ民族芸能伝承講座 講師
  • 2015年   白老生活モデル事業(半纏・タペストリー)講師
  • 2015年   アイヌ民族芸能保存会(歌・踊り)講師(平成28年まで)
  • 2016年   アイヌ工芸作品コンテスト(アイヌ文化財団)奨励賞受賞
  • 2017年   アイヌ民族芸能保存会(実践上級講座)講師 ​​

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